浩子の部屋

ドライマウス

EBAC近畿ブロックローカル研修会に出席して、大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能治療学教室の阪井丘芳教授の「ドライマウスに対する口腔ケア」(唾液腺の基礎と臨床)と題された講演を聴かせていただきました。阪井先生は、大阪大学歯学部附属病院で「ドライマウス外来」を開設され、多くの患者さんの治療にかかわってこられたデータから、医師側の立場ではなく、患者さんサイドが理解できるように書かれた本を出版されました。
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通院あるいは入院されている患者さんの中で、
「上手くしゃべられない」「食べられない」「飲み込めない」「息が吹けない」「口が渇く」「いびきをかく」「寝ている時に急に息がとまる」・・・等々の症状がありますが、これらはすべて口の機能障害です。大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能治療学教室では、?言語障害、?摂食・嚥下障害、?睡眠時無呼吸、?口腔乾燥症、?栄養歯科を研究されており、歯学部附属病院では、それぞれの症状に応じた?スピーチ外来、?摂食・嚥下外来、?睡眠歯科外来、?ドライマウス外来、?栄養歯科外来が開設されているそうです。
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国内で、ドライマウス(口腔乾燥症)の患者さんは、推定で800万人おられるといわれています。当院にも、口臭を気にして来られる患者さんは、ドライマウスが原因の方が50〜60%です。また、舌痛症の方も、ストレス等の心因性もありますが、ドライマウスが起因しています。お口の中は、常に唾液で満たされて、口腔内粘膜が潤っていないと、様々な症状が発現します。
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唾液が出にくくなる三大原因は、「筋力低下と老化」「薬の副作用」「ストレス」です。
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年齢と共に筋肉や筋力は低下し、筋肉量は1年間に1%の割合で低下していきます。つまり、50年経つと若い時の半分の筋力になるということです。すると、筋肉に囲まれている唾液腺に刺激が少なくなり、唾液の減少に繋がってきます。唾液分泌が減ると、pHが崩れてきて、酸性に傾き、真菌やカンジダが増殖して、粘膜が損傷されます。筋力の低下により、様々な口腔機能障害や誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。まず、日頃運動をして、筋力を維持することが大切ですね。
また、日常飲まれている薬によっても、ドライマウスを引き起こします。ドライマウス患者の10人中5〜6人は、薬の副作用によるものと思われます。種類としては、睡眠薬・精神安定剤・抗うつ剤・降圧剤・抗ヒスタミン薬・カゼ薬・頻尿の為の抗コリン薬などがあげられます。つまり、薬を飲むだけで、「口が渇く」という副作用のあるものが700種類くらいあります。以前に、病気の治療のための薬を30種類くらい飲んでおられた患者さんが、主治医と相談の上、薬剤を取捨選択して5〜6種類に減らしてもらったところ、ドライマウスの症状が軽減したという話も多々あります。薬は、高齢者になるほど吸収が悪くなるので、だんだんに量を減らしていくことが必要なのです。
リラックス(副交感神経優位)すると、漿液性のサラサラ唾液が出ます。居眠りした時や美味しそうなものを見た時に出てくる「よだれ」が、そうですね。ちょっと汚いイメージがあるかもしれませんが、赤ちゃんのように「よだれ」がいっぱい出る方がいいんです。ストレスがあると、ムチンとかアミラーゼ等のたんぱく質が出てきて、ネバネバになります。唾液分泌は自律神経に関係しているので、ストレスがあると交感神経の働きが強くなって、唾液分泌が抑えられてしまいます。日頃から、リラックスすることを心がけましょう!!
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唾液は、「食べる」「飲む」「話す」といった人間にとって欠かすことのできない機能を営むうえで、とても重要な役割を果たしています。唾液は1日平均1.5ℓくらい出るといわれていますが、「抗菌作用」「消化作用」「粘膜保護作用」「食塊形成作用」「中和作用」「修復作用」等の、様々な働きをしています。唾液に含まれる成分は、次のようなものです。
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? 消化作用・・・アミラーゼ
? 抗菌作用・・・ラクトフェリン、リゾチーム塩酸塩
? 粘膜保護作用・・・ムチン
? 粘膜修復作用・・・NGF(神経栄養因子)、EGF(上皮成長因子)
? 中和作用・・・胃酸の中和をする
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この中で、EGFは、ノーベル賞で脚光を浴びたことで有名になり、最近では、アンチエイジング効果を期待して、化粧品にも加えられています。NGFは、海外ではアルツハイマー型認知症の治療への応用を研究されているようです。また、胃酸は強酸ですので、水で中和しようとしたら、胃袋の容量に対しバケツ何杯分かが必要ですが、唾液だとコップ1杯で中和できるという、天然の胃薬のような作用があるということです。
以上のように、唾液は、まさに「魔法の秘薬」ともいうべき、素晴らしい成分をいっぱい含んでいます。唾液をたっぷり出して、それで口腔内の傷を治し、脳神経の回復を早め、感染予防をし、虫歯の再石灰化を促し、飲み込んでアンチエイジング効果があり、ほんとうに万能です。
だから、ドライマウスになると、様々な障害や病気になるのも頷けます。私達の支持する本田俊一先生は、もともとは獣医師であり、「動物はものを言わないので、眼・口・鼻・肛門・膣等の粘膜の状態を見て、病状を診る」と仰っていました。粘膜系が乾燥すると、様々な疾患が表れるのですね。
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今回の講演では、唾液腺刺激マッサージの方法も教えていただきました。これもマスターして、日々の診療に役立てたいと思います。それと、唾液分泌のもとになる「水」をたっぷりと1日2ℓ以上摂っていただけるように、もっともっと勧めないといけないと思いました。そして、歯科は、予防歯科のみならず、口腔内科、予防医科にも繋がるように、皆さんにできる限り啓発するべきだと考えます。
最後に・・・
人が死に至る時、「末期の水」という言葉があります。身体が機能しなくなって、唾液も出なくなると、喉の奥がひっ付いてピリピリと激痛がはしります。その時に、水を含んであげることで喉の痛みが一時的に治まるので、「末期の水」を含ませてあげるのだそうです。生命力あふれる赤ちゃんは、お口によだれがいっぱい。生命が消えゆく人は、お口がカラカラ。この両極端で、いかに「唾液」が大切なものであるかが、うかがい知れます。
心にも  よだれ出るほど  潤いを
            保ち生き生き  幸せ人生

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